漸近展開を使った不定形の極限計算

不定形の極限

不定形の極限とは、例えば、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{g(x)} = \frac {0}{0} $$

のようになってしまい、単純にそれぞれの極限を取ることでは計算できない極限のこと。

ロピタルの定理を使う場合が多い。

ロピタルの定理とその注意点

漸近展開を使うことで、不定形の極限を計算できる場合がある。

ランダウの\(o\)記号の計算規則

漸近展開で極限を求めるためには、ランダウの\(o\)記号の計算が必要になる。

ランダウの記号入門 ランダウの記号(ランダウのきごう、英:Landau symbol)は、関数の極限における値の変化度合いに、おおよその評価を与えるための記法である。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 \(\delta \gt 0\)とし...

まず、ざっくり言うと、\(f(x) = o(x^n)\)とは、\(f(x)\) が「\(x^n\)より速く0に近づく関数」であるということ。

数式で表すと、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^n}= 0 \iff f(x) = o(x^n) $$

\(m, n\)を0以上の整数として、\(x \to 0\)で以下のような計算規則が成り立つ。

$$ m \leq n \implies o(x^m) + o(x^n) = o(x^m) $$

$$ x^m o(x^n) = o(x^{m+n}) $$

$$ o(x^m) o(x^n) = o(x^{m+n}) $$

$$ m \leq n \implies \frac{o(x^n)}{x^m} = o(x^{n-m}) $$

証明

\(m \leq n \implies o(x^m) + o(x^n) = o(x^m)\)

$$ f(x) = o(x^m), g(x) = o (x^n) \quad (x \to 0) $$

とすると、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^m} = 0 $$

$$ \lim_{x \to 0} \frac{g(x)}{x^n} = 0 $$

ここで、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{g(x)}{x^m} = \lim_{x \to 0} \frac{g(x)}{x^n}x^{n-m} = 0 $$

よって、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{f(x) + g(x)}{x^m} = \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^m} + \lim_{x \to 0} \frac{g(x)}{x^n}x^{n-m} = 0 $$

$$ \therefore o(x^m) + o(x^n) = o(x^m) \quad (x \to 0) $$

\(x^m o(x^n) = o(x^{m+n})\)

$$ f(x) = o (x^n) \quad (x \to 0) $$

とすると、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^n} = 0 $$

よって、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{x^m f(x)}{x^{m+n}} = \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^n} = 0$$

$$ \therefore x^m o(x^n) = o(x^{m+n}) $$

\(o(x^m) o(x^n) = o(x^{m+n})\)

$$ f(x) = o(x^m), g(x) = o (x^n) \quad (x \to 0) $$

とすると、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^m} = 0 $$

$$ \lim_{x \to 0} \frac{g(x)}{x^n} = 0 $$

よって、

$$ \begin{align} \lim_{x \to 0} \frac{f(x)g(x)}{x^{m+n}} &= \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^{m}}\frac{g(x)}{x^{n}} \\ &= \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^{m}} \lim_{x \to 0} \frac{g(x)}{x^{n}} = 0 \end{align} $$

$$ \therefore o(x^m) o(x^n) = o(x^{m+n}) $$

\(m \leq n \implies \frac{o(x^n)}{x^m} = o(x^{n-m})\)

$$ f(x) = o (x^n) \quad (x \to 0) $$

とすると、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^n} = 0 $$

よって、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{\frac{f(x)}{x^m}}{x^{n-m}} = \lim_{x \to 0} \frac{f(x)}{x^n} = 0 $$

$$ \therefore \frac{o(x^n)}{x^m} = o(x^{n-m}) $$

漸近展開を使った不定形の極限計算

$$ \lim_{x \to 0} \frac{\sin x -x}{x^3} $$

分母と分子にそのまま0を代入すると \( \frac{0}{0}\)になる不定形。

\( \sin x\)の\(x \to 0\)における4次までの漸近展開は、

$$ \sin x = x – \frac{1}{6}x^3 + o(x^4) $$

\(x \to 0\)での極限は以下のように求まる。

$$ \begin{align} \frac{\sin x -x}{x^3} &= \frac{1}{x^3}(x – \frac{1}{6}x^3 + o(x^4) – x) \\ &= – \frac{1}{6} + o(x) \to – \frac{1}{6} \quad (x \to 0) \end{align} $$


$$ \lim_{x \to 0} \frac{ \sin x – x e^x + x^2 \cos x}{x(1- \cos x)} \tag{1}$$

分子を\(x \to 0\)で3次まで漸近展開する。

$$ \sin x = x – \frac{1}{6} x^3 + o(x^4) $$

$$ \begin{align} x e^x &= x ( 1 + \frac{1}{1!}x + \frac{1}{2!}x^2 + o(x^2) ) \\ &= x + x^2 + \frac{1}{2} x^3 + o(x^3) \end{align}$$

$$ x^2( \cos x) = x^2 ( 1 + o(x)) = x^2 + o(x^3) $$

$$ \therefore (分子) = – \frac{2}{3} x^3 + o(x^3) $$

分母を\(x \to 0\)で4次まで漸近展開する。

$$ \cos x = 1 – \frac{1}{2}x^2 + o(x^3) $$

$$ x(1 – \cos x) = x ( 1 -1 + – \frac{1}{2}x^2 + o(x^3)) = \frac{1}{2}x^2 + o(x^4) $$

$$ \therefore (分母) = \frac{1}{2}x^3 + o(x^4) $$

よって、

$$ \begin{align} (1) &= \frac{- \frac{2}{3} x^3 + o(x^3)}{\frac{1}{2}x^3 + o(x^4)} \\ &= \frac{x^3 (- \frac{2}{3} + o(1)) }{x^3 ( \frac{1}{2} + o(x)) } \\ &= \frac{- \frac{2}{3} + o(1)}{\frac{1}{2} + o(x)} \to \frac{- \frac{2}{3}}{\frac{1}{2}} = – \frac{4}{3} \quad (x \to 0 ) \end{align} $$


$$ \lim_{x \to 0} \frac{ (1+x)^{\frac{1}{x}} – e}{x} $$

まず、

$$ (1+x)^{\frac{1}{x}} = e^{\log (1+x)^{\frac{1}{x}}} = e^{ \frac{1}{x} \log (1 + x)}$$

\(\log (1+x) \)を\(x \to 0\)で2次まで漸近展開して、

$$ \log (1+x) = x – \frac{1}{2} x^2 + o(x^2) $$

よって、

$$ \frac{1}{x} \log (1 + x) = 1 – \frac{1}{2} x + o(x) $$

(単純に漸近展開を行おうとすると、\(x \to 0\)で\(\frac{1}{x} \log (1 + x) \to 1\)なので、\(e^{ \frac{1}{x} \log (1 + x)}\)のままでは漸近展開を行えない。そこで、\(x \to 0\)で\( \varphi (x) \to 0 \)を満たすような関数\( \varphi (x) \)を定める。)

$$ \varphi (x) = \frac{1}{x} \log (1 + x) – 1 $$

とおくと、

$$ (1+x)^{\frac{1}{x}} = e^{1+ \varphi (x) } = e e^{\varphi (x) }$$

また、\(\varphi (x) \)を漸近展開すると、

$$ \varphi (x) = – \frac{1}{2} x + o(x) $$

よって、

$$ \lim_{x \to 0} \varphi (x) = 0 $$

\(e^x\)の漸近展開は、

$$ e^x = 1 + x + o(x) \quad (x \to 0) \tag{1}$$

\(x\)に\(\varphi (x)\)を代入して、

$$ \begin{align} e^{\varphi (x)} &= 1 + \varphi (x) + o(\varphi (x)) \\ &= 1 – \frac{1}{2} x + o(x) + o(\varphi (x)) \quad (x \to 0) \end{align}$$

\( o(\varphi (x)) \)の評価について考える。

もともとの\((1)\)での関数を \(\psi (x)\)とすると、この関数が\(o(x)\)なので、無限小の定義より、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{\psi (x)}{x} = 0$$

ここで、

$$ \lim_{x \to 0} \varphi (x) = 0 $$

なので、

$$ \lim_{x \to 0} \frac{\psi (\varphi (x) )}{x} = 0$$

よって、

$$ \psi (\varphi (x) ) = o(x) \quad (x \to 0) $$

ゆえに、

$$ e^{\varphi (x)} = 1 – \frac{1}{2} x + o(x) \quad (x \to 0) $$

以上より、

$$ \begin{align} (1+x)^{\frac{1}{x}} – e &= e e^{\varphi (x)} – e \\ &= e ( e^{\varphi (x)} – 1) \\ &= e ( 1 – \frac{1}{2} x + o(x) -1) \\ &= e ( – \frac{1}{2} x + o(x) ) \quad (x \to 0) \end{align}$$

$$ \begin{align} \therefore \frac{ (1+x)^{\frac{1}{x}} – e}{x} &= \frac{e ( – \frac{1}{2} x + o(x) )}{x} \\ &= e ( – \frac{1}{2} + o(1 )) = – \frac{e}{2} \quad (x \to 0) \end{align} $$