ブラックショールズモデル

以下のPDFがブラック–ショールズ方程式まで含めオプションの価格付けについて 、とてもわかりやすかったです。

計算ファイナンスの基礎

ブラウン運動とウィーナー過程

ブラウン運動

ある株\(S\)の期間\([t, t+1]\)の収益率を\(R(t)\)とします。

$$ R(t) = \frac{S(t+1)-S(t)}{S(t)} $$

この時、収益率\(R(t)\)は正規分布\(N(\mu, \sigma^2)\)に従うとすると、\(R(t)\)は以下のようになるだろうと考えることができます。

$$ R(t) = \mu + \sigma \cdot a$$

つまり、収益率を予測可能な部分である\(\mu\)と予測不可能な部分である\( \sigma \cdot a \)に分けることができます。

予測不可能な部分は、ブラウン運動やランダムウォークという現象を表していると考えます。

ブラウン運動(ブラウンうんどう、: Brownian motion)とは、液体のような溶媒中[注 1]に浮遊する微粒子(例:コロイド)が、不規則(ランダム)に運動する現象である。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ランダムウォーク英語: random walk)は、次に現れる位置が確率的に無作為(ランダム)に決定される運動である。日本語の別名は乱歩(らんぽ)、酔歩(すいほ)である。

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このような考え方を価格P(t)に適用すると、予測可能な部分である \(\mu\) と ブラウン運動である\( \sigma \cdot a \) に分けて考えることができ、チャートでよく見るボリンジャーバンドになります。

ブラウン運動のようなランダムな変動を含むと考えられる価格を計算するためには、ブラウン運動を数学的モデルとして記述できなければなりません。

また、回帰分析のような手法で価格の変動を予測するためには、ブラウン運動の部分を取り除く必要があります。

ウィーナー過程

ブラウン運動の数学的モデルとして、ウィーナー過程\(W(t)\)を使うことができます。

数学におけるウィーナー過程(ウィーナーかてい、: Wiener process)は、ノーバート・ウィーナーの名にちなんだ連続時間確率過程である。ウィーナー過程はブラウン運動数理モデルであると考えられ、しばしばウィーナー過程自身をブラウン運動と呼ぶ。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ウィーナー過程は、ブラウン運動を素直に数式に落とし込んだ形です。

ウィーナー過程\(W(t)\)は、独立増分\(W(t+dt)-W(t)\)を持っており、この独立増分は過去の値とは無関係に正規分布\(N(0, dt)\)に従います。

$$ W(t+dt)-W(t) \sim N(0, dt ) $$

またウィーナー過程\(W(t)\) は連続です。

幾何ブラウン運動とブラック-ショールズモデル

ウィーナー過程を使うことで、\( d B_t \)をブラウン運動(ウィーナー過程)の増分として、価格の変化を以下のような確率微分方程式で表すことができます。

$$ dS_t = \mu S_t dt + \sigma S_t d B_t $$

$$ d B_t \sim N(0, dt ) $$

この確率微分方程式に従う確率過程を幾何ブラウン運動と呼びます。

幾何ブラウン運動 (きかブラウンうんどう、: geometric Brownian motion; GBM) は、対数変動が平均μ分散σのブラウン運動にしたがう連続時間の確率過程[1]で、金融市場に関するモデルや、金融工学におけるオプション価格のモデルでよく利用されている。

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また、幾何ブラウン運動で表される株価と無リスク資産の債券で構成される市場をモデル化すると、ブラック-ショールズモデルとなります。

ブラック–ショールズモデルとは、1種類の配当のないと1種類の債券の2つが存在する証券市場のモデルである。

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確率微分方程式

ブラック-ショールズモデルの微分方程式は確率微分方程式と呼ばれ、定石とされる解法があります。

確率微分方程式(かくりつびぶんほうていしき、: Stochastic differential equation)とは、1つ以上の項が確率過程である微分方程式であって、その結果、解自身も確率過程となるものである。

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確率微分方程式を伊藤の補題を使い考えます。

伊藤の補題(いとうのほだい、Itō’s/Itô’s lemma)は、確率微分方程式確率過程に関する積分を簡便に計算するための方法である。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

例として、ブラウン運動を行う\(X(t)\)を変数に持つ関数\(F(X)=X^2 \)を考え、普通にテイラー展開をします。

$$ F(X +dX) = F(X) + \frac{dF(X)}{dX} dX+ \frac{1}{2}\frac{d^2F(X)}{d^2X}dX^2 $$

ここで、 \(X(t)\) はブラウン運動を行う、つまりウィーナー過程に従うので、\(E[dX^2]=dt\)となります。また、\( F(X +dX) – F(X) = dF(X)\)です。

$$ dF(X) = \frac{dF(X)}{dX} dX+ \frac{1}{2}\frac{d^2F(X)}{d^2X} dt $$

つまり、

$$ dF(X) = 2XdX + dt $$

という確率微分方程式を得ることができます。

オプション価格の確率微分方程式

オプション価格\(V\)は、その原資産の価格\(S\)と期限までの時間\(T\)により決まると考えられます。

まず、原資産の価格\(S(t)\)の確率微分方程式を、ウィーナー過程の増分\(dX\)を使い、以下のように表します。

$$ dS(t) = a(S, t)dt + b(S, t)dX $$

オプション価格の変化を考えます。

$$\begin{align} &\quad V(S+\Delta S, t+\Delta t) \\&= V(S, t) + \frac{ \partial V}{\partial t}\Delta t + \frac{\partial V}{\partial S}\Delta S + \frac{1}{2}(\frac{\partial^2 V}{\partial t^2}\Delta t^2 + 2 \frac{\partial^2 V}{\partial S \partial t}\Delta S \Delta t + \frac{\partial^2 V}{\partial S^2}\Delta S^2 )\end{align}$$

つまり、

$$ dV(S, t) = \frac{ \partial V}{\partial t} dt + \frac{\partial V}{\partial S} dS + \frac{1}{2}(\frac{\partial^2 V}{\partial t^2}dt^2 + 2 \frac{\partial^2 V}{\partial S \partial t}dSdt + \frac{\partial^2 V}{\partial S^2}dS^2 ) $$

上式で\(O(dt)\)までの項を考えます。

$$ dV(S, t) = \frac{ \partial V}{\partial t} dt + \frac{\partial V}{\partial S} dS + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 V}{\partial S^2}dS^2 $$

また、

$$ \begin{align} dS^2 &= (a \cdot dt+b \cdot dX)^2 \\&= a^2dt^2 + 2a \cdot b \cdot dt \cdot dX +b^2dX^2 \end{align}$$

上式で \(O(dt)\)までの項を考えます。

$$ dS^2 = b^2dX^2 $$

ここで \(dX\) はウィーナー過程の増分なので\(E[dX^2]= dt\)だから、

$$ dV(S, t) = \frac{ \partial V}{\partial t} dt + \frac{\partial V}{\partial S} dS + \frac{1}{2}b^2\frac{\partial^2 V}{\partial S^2}dt $$

\(dS = a \cdot dt + b \cdot dX\)を使い式を整理して、

$$ dV(S, t) = (\frac{\partial V}{\partial t} + a \frac{\partial V}{\partial S} + \frac{1}{2}b^2\frac{\partial^2 V}{\partial S^2})dt + b \frac{\partial V}{\partial S} dX $$

が、オプション価格の確率微分方程式となります。