モダンポートフォリオ理論では、ポートフォリオを組むことで個別資産のリスクを低減させることができました。
さらに、資本資産価格モデル CAPMを使うことで、モダンポートフォリオ理論では低減することのできないマーケットリスクを\( {\beta}\)として把握することができました。
ブラック・ショールズモデルは、ある時点での金融資産の価格を論理的に計算することのできるモデルです。
ブラック・ショールズモデルを使うことで、例えば、オプションと現物株を組み合わせることで、マーケットリスクを除いたポートフォリオを組むことができます。
デルタヘッジ
ある現物株のオプション価格\(V\)を考えます。
\(V\)のパラメータとしては、現物株の価格\(S\)、時点\(t\)、現物株のドリフト\(\mu\)、現物株のボラティリティ\(\sigma\)、オプションの行使価格\(E\)、オプションの期限\(T\)、無リスク資産の利子率\(r\)を考えます。
$$ V(S, t, \mu, \sigma, E, T, r) $$
ここで、このある現物株が値上がりしたとします。
するとこの株のコールオプションの価格は当然ながら上昇します。
つまり、現物株の価格とコールオプションの価格には正の相関関係があります。
ここで、オプションと現物株を組み合わせた以下のようなポートフォリオ\(\pi\)を考えます。
$$ \pi = V(S, t) – \Delta S $$
\( V(S, t) \)はオプションのロングで\( -\Delta S \)は現物のショートと考えると、このポートフォリオ\( \pi \)は、現物株とそのオプションを使い価格の上下をキャンセルしているポートフォリオとみなすことができます。
現物株の価格\(S\)は、\( dX \)をウィーナー過程として、以下の微分方程式に従うとします。
$$ dS = \mu S dt + \sigma S dX $$
ポートフォリオ\(\pi\)の微分方程式は以下のようになります。
$$ d \pi = d V(S, t) – \Delta d S $$
ここで、\( d V(S, t) \)は、伊藤の公式を使い以下のように表すことができました。
$$ dV(S, t) = \frac{ \partial V}{\partial t} dt + \frac{\partial V}{\partial S} dS + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2 \frac{\partial^2 V}{\partial S^2}dt $$
つまり、
$$ d \pi = \frac{ \partial V}{\partial t} dt + \frac{\partial V}{\partial S} dS + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2 \frac{\partial^2 V}{\partial S^2}dt – \Delta d S $$
$$ d \pi = \left( \frac{ \partial V}{\partial t} + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2 \frac{\partial^2 V}{\partial S^2} \right) dt + \left( \frac{\partial V}{\partial S} – \Delta \right) dS $$
ポートフォリオ\(\pi\) を、ドリフトとボラティリティに分けて考えることができます。
また上式より、\(\Delta = \frac{\partial V}{\partial S} \)となるように \(\Delta \)を選ぶことでボラティリティがゼロのポートフォリオ、つまりリスクがゼロのポートフォリオを構成することができ、デルタニュートラルと呼ばれます。
In finance, delta neutral describes a portfolio of related financial securities, in which the portfolio value remains unchanged when small changes occur in the value of the underlying security.
From Wikipedia, the free encyclopedia
また、デルタを利用してリスクをヘッジするので、デルタヘッジとも呼ばれます。
無裁定価格理論とブラックショールズ方程式
無裁定価格理論(むさいていかかくりろん、英: no arbitrage pricingまたは英: arbitrage-free pricing)とは、裁定取引が存在しないことを仮定して商品の価格付けを行う理論のことである。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
無裁定価格理論とは、端的に述べれば、完全競争市場では「リスクを取らなければ利益はない」という理論です。
デルタヘッジを使うことで、以下のような確定的な利益を生むポートフォリオ\(\pi\)を組むことができます。
$$ d \pi = \left( \frac{ \partial V}{\partial t} + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2 \frac{\partial^2 V}{\partial S^2} \right) dt $$
無裁定価格理論を前提とすると、 ポートフォリオ\(\pi\) はリスクがないので、無リスク資産の利子率\(r\)を使い、以下のようにならなければなりません。
$$ \begin{align} d \pi &= r \pi dt \\ &= r (V – S \frac {\partial V} {\partial S} )dt \end{align}$$
よって、
$$ \frac{ \partial V}{\partial t} + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2 \frac{\partial^2 V}{\partial S^2} + r S \frac {\partial V} {\partial S} – rV = 0 $$
というブラックショールズ方程式と呼ばれる偏微分方程式が得られます。
ブラック–ショールズ方程式(ブラック–ショールズほうていしき、英: Black–Scholes equation)とは、デリバティブの価格づけに現れる偏微分方程式(およびその境界値問題)のことである。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ブラックショールズ方程式の解
ブラックショールズ方程式を解くと、コールオプションの価格\(C\)、プットオプションの価格\(P\)は以下のようになります。
$${\displaystyle N(x)={\frac {1}{\sqrt {2\pi }}}\int _{-\infty }^{x}e^{-{\frac {y^{2}}{2}}}dy}$$
$${\displaystyle d_{1}={\frac {\log({\frac {S_{t}}{E}})+(r+{\frac {\sigma ^{2}}{2}})(T-t)}{\sigma {\sqrt {T-t}}}}}$$
$${\begin{align} \displaystyle d_{2} &={\frac {\log({\frac {S_{t}}{E}})+(r-{\frac {\sigma ^{2}}{2}})(T-t)}{\sigma {\sqrt {T-t}}}} \\&= d_1- \sigma {\sqrt {T-t}} \end{align}}$$
として、
$$ C = S(0)N(d_1)- E exp(-r(T-t))N(d_2) $$
$$ P = -S(0)N(-d_1) + E exp(-r(T-t))N(-d_2) $$
グリークス
ブラックショールズ方程式は、以下のように表されました。
$$ \frac{ \partial V}{\partial t} + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2 \frac{\partial^2 V}{\partial S^2} + r S \frac {\partial V} {\partial S} – rV = 0 $$
ブラックショールズ方程式は、ギリシャ文字を使い定義されたグリークスと呼ばれる変数を使うことで、以下のように表されることがあり、見通しが良くなります。
$$ \Theta + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2 \Gamma + r S \Delta – rV = 0 $$
デルタ
$$ \Delta = \frac{\partial V}{\partial S} $$
株価に関するオプション価格の変わりやすさです。
ガンマ
$$ \Gamma = \frac{\partial^2 V}{\partial S^2} $$
デルタの変わりやすさで、デルタヘッジを行う場合のポジション調整の頻度と考えることができます。
シータ
$$ \Theta = \frac{\partial V}{\partial t} $$
時間に関するオプション価格の変わりやすさです。
ロー
$$ \rho = \frac{\partial V}{\partial r} $$
利子率に関するオプション価格の変わりやすさです。
ベガ(カッパ)
$$ \kappa = \frac{\partial V}{\partial \sigma} $$
リスクに関するオプション価格の変わりやすさです。